腹腔鏡補助下胃切除術開発の思い出 vol.2

《アメリカでのトレーニング》
 巷では、外国のトレーニングというのは数十万円も払ってラパコレを修得していると聞いていましたが、こちらはまだまだ田舎、病院に隣接する自前のラボで、市役所の野犬処理のおじさんが捕まえた雑種犬を使って、好きな時に動物実験ができたのです。もちろん実験用腹腔鏡などなく、古い上部内視鏡を腹腔鏡代わりにしてトレーニングを行いました。日本で最初に胆嚢摘出術を施行したのは「ワシだ」と言う先輩外科医が知っているだけでも何人かいますが、実際には2000年の5月と聞いていますので、おかげで私たちは遅れることたった半年で、腹腔鏡下胆嚢摘出の臨床応用が開始できました。
 しかし、私の頭の中ではラパコレなどはどうでもよく、腹腔鏡で胃癌の手術をすることばかり考えていました。腹腔鏡下胃部分切除については当時、私と同期の慶応大学大上正裕先生(故人)のlesion lifting methodや大阪大学の大橋秀一教授の胃内手術が脚光を浴びていましたが、これらはあくまでも、今のEMRやESDと同様にリンパ節転移のない病変に対する局所切除術です。相も変わらずイヌを使った実験で腹腔鏡下胃切除の手技を模索し、腹腔内手技はある程度修得できましたが、問題は再建手技でした。当時は、完全鏡視下吻合の技術はなく、胃を摘出する小切開創からの吻合を考えていました。しかし、吻合のために切開創が大きくなっては、せっかく腹腔鏡下操作を行っても何の意味もありません。よく、「吻合は、約5~6cmの切開創から」という発表を聞くことがありますが、私の周りを見渡す限り、外科医の物差しほどいい加減なものはなく、1cmといえば大抵2cm。3cmといえば5cm、ほんの5,6cmといっても10cmを優に越えていることが希ではありません。私自身は、適応を選んでは、正確に8cmの切開創でリンパ節郭清と再建を伴う胃切除を行ったことがあります。だから、6cmでは意味がなかったのです。そこで私たちはCircular staplerを用いたBillrothI法を考ました。計算通りであれば、直径25mmの自動吻合器だと、4cmの切開ですむ。ところが、実験室にいる日本のイヌは皆小型犬で、とても直径25mmの自動吻合器が十二指腸に入らないと悩んでいたら、某社の営業の方が、アメリカの外科学会(ACS)への参加をかねての腹腔鏡下大腸切除術のトレーニングコースを勧めてくれました。「アメリカのイヌは大きいから器械吻合器が入る・・・」「アメリカで腹腔鏡下胃切除術完成させる」という強い意気込みで相棒の瀧藤克也先生(現和歌山県立医科大学中央内視鏡部次長)と渡米しました。かくして、腹腔鏡下大腸切除術トレーニングセミナー最終日、半日の自由時間に腹腔鏡下リンパ節郭清Billroth I法再建術式を開始しました。気のあった前立ちで腹腔内操作は順調でした。

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