クリニックの窓教えて、開業医のホント

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-富士見メンタルクリニック-
埼玉県富士見市


里村淳先生近年、勤務医の開業志向の高まりや、実際に、「開業するなら若い時期」と考える傾向が強まっている。確かにどんな職業でも新規開業となれば若く、力があるうちのほうが良いだろう。しかしそれでもタイミングが悪いと折角の力が空回りすることもある。年齢に左右されない、今この時期に開業したからこそ盛業に至ったというケースを今回ご紹介したい。

池袋駅から東武東上線準急に乗ること25分。みずほ台駅から、真っ直ぐのびる大通りに並行する道沿いに、3階建てで青い看板がよく目立つ富士見メンタルクリニックがある。1階が調剤薬局で2階が受付、診療室、処置室、3階にはカウンセリング室が配されている。

訪問を告げると、同クリニックの里村 淳院長が招き入れてくれて、書斎といった感がある診察室にてお話をうかがった。道路に面し、さらにビルの両側が駐車場であることから採光が良い。

病院外観 開業は平成13年2月。初日は16人の来院があった。「後から人に聞くと、初日にしては良い出だしだったようですね」と里村院長。その後もコンスタントに患者数が増え、「6月頃には口コミによる来院が増え出した」。完全予約制になったのもこの時期にあたる。
「受付の従業員の協力もあって、来院されても先に待っているのが、せいぜい1~2人といった程度で済んでいます。特にプライバシーに配慮する心療内科の待合室らしくなった」と満足そうだ。当初は1日30人を目標にしていたが、半年で達成して今は平均45人。最高で57人の日もあったという。現在の月あたり平均外来患者数は844人に達している。

この好調の裏には、精神科医が社会的に認知され、心療内科に通うということの敷居が低くなったことが大きいという。「5年前に開業されたクリニックの院長に聞くと、やはり2年ぐらいは厳しかったようです。私もその頃に開業していたら同じだった可能性が高い。そういった意味では、開業した時期が時代のニーズに合っていたようだし、追い風となった」
 

受付「親戚筋もみな医者が多く、医者でない人を数えたほうが早いほど。それ以外の仕事を選ぶほうが不自然なくらいだった」という里村院長は、東京慈恵会医科大学を昭和48年に卒業、昭和50年にドイツに渡った。「中学、高校と獨協だったので、第一外国語がドイツ語でした。ですからアメリカ、イギリスよりも馴染みがあった」。帰国後に森田療法施設・高良興生医院、浜松医科大学精神科助手、千本病院副院長、国立療養所静岡東病院(てんかんセンター)、栃木県立岡本台病院医務局長兼慈恵医大精神科講師を経て、南伊豆病院では理事長・院長職を務めた。

29年間、一貫して勤務医として診療にあたっていた里村院長だが、開業を決意したのは平成12月7月のこと。開業半年前だ。その時の心境について、「医局派遣や親戚筋の病院を任されるなどして『こうした感じで医者としての人生を終える』と漠然と考えていたが、この10年間のメンタルクリニックブームを見ていて、『面白そうな世界だ。自分でもやってみたいという気持ちになった』」と、開業への意欲を燃やした。

「開業を決めたのは良いが、勤務地が伊豆の山奥なので自分で物件など探そうにも手も足も出ない。そんな時、たまたま開業案内のDMが届いて、そのアンケートを出してみるとすぐに返事がきた」
。希望に近い良い物件があるというので、見学に行くと実家のある浦和に近く、競合するクリニックも少なくアクセスも悪くない。すぐに気に入ったという。「他の物件は見ませんでした」。即断した背景には、年齢が高い時点での開業だったこともある。里村院長53歳の決断だった。

周りからは「辞めたほうが良い」と、忠告も受けた。特に兄弟親戚が同業であれば、なおさらだろう。しかしそれ以上に"心療内科"という世界に触れてみたい、という気持ちのほうが強かった。それに勝算もあった。「この周辺は、かつては畑ばかりでしたが、今はベッドタウン化しています。ある意味、現代社会を反映しているようなメンタルクリニックのモデル地域と言っていい」。需要は必ずあると確信した。

従来、日本の精神医療は量的に民間の単科の病院が中心となってきた。精神科を受診するのであれば精神病院へ、というのが一般的だった。最近は精神病院もきれいで開放的になり、受診しやすくなったとはいえ、やはり気軽には入りずらい。また精神科医も非精神病圏である軽いうつ病や神経症、病気ではないが悩み事など、通院だけで治療が可能な患者を診るのを敬遠しがちだという。そうした患者が、町なかのクリニックに集中している現状があった。来院患者から受診後の感想を聞くと、「保険も利くし、高くない。話も親身に聞いてくれる」と評判を得た。狙いは当たった。
 

カウンセリング室「10年以上開業している先輩に聞くと『潜在的な患者はいくらでもいる』という。診療圏の人口で判断し、患者数の上限もわかってしまいそうだが、むしろ患者さんは増えていく。奥深いものを感じています。精神病院勤務では得られない経験ができ、これで終わりという世界でもない」と、日々新鮮な刺激を受けているという。

口コミなどにより、近所からだけでなく川越市南部からの患者が意外に多いという。入り組んだ地形から南部地区が沿線の駅にかかっているため、むしろ通院しやすいためだ。 患者の7割を女性が占めるので、女性の臨床カウンセラーを2名採用したことも大きい。加えて、美容院のような女性受けする医院造り。奥まった入り口も、受診する立場になってみれば入りやすさがあるという。

「開業医であるからには、患者さんのニーズに応えていく必要がある。従来の大学中心の医療で考えてはいけない。ストレス社会を反映してか、今は『癒し』を求める傾向が強く、また、心療内科は女性特有の問題を抱えているケースが多く、女性カウンセラーに話を聞いてもらいたいというニーズが高い。すぐに実行しました。これまでの伝統的な精神科医療の延長線上だけでものを考えていたのではやっていけない」

里村院長は開業当初からパソコンで患者データ管理をしている。患者の居住地、何で知ったか(医療機関、新聞、口コミ、看板、保健所紹介、HP、電話帳、他)、など週単位でデータをとり、診療や経営に活かしている。実際にエクセル上で展開されるグラフなども見せていただいたが、ホームページ開設(5月)、電話帳掲載(10月)と、まだ日が浅いにも関わらず、着実な伸びを見せている。また道路に人の往来が多く、看板を見ての来院も多いようだ。

「心療内科のクリニックのホームページは数多くありますが、私のページは更新回数が多いので、常にチェックされる人が多いようです」
。趣味のページも設けてあるが、動物や草花、鉄道写真などと共に、里村院長の雑感を読むことができる。「院長写真を載せるよりも、こうしたくだけたものを掲載したほうが反響も多い。『院長の人柄がわかります』と言われました」と、その効果に手ごたえを感じている。メール相談も受けているが、少ない時で1日1通、通常2~3通来る。それがきっかけで来院するケースも多いという。こころの悩みを相談できる場が、心療内科しかないという実態を反映しているようだ。「他に相談するところで、強いてあるとすれば占い師かな」と、今の時代を冷静に分析している。

休診日である木曜日には、行政機関の行う患者会の講演や相談、保健所では症例検討会のアドバイザーも務める。そういった相談窓口にはクリニックのパンフを置いてもらい増患の一助ともなっている。医師会への出席や懇親会などへの参加も積極的だ。

診療室そうした多忙な中でも、週に最低2回はスポーツクラブへ通い、汗を流す。健康維持の目的から始めたのだが、思わぬことに気がついたという。「医師会で顔を合わす先生とジムで会うことがよくある。忙しい先生ほど、いろいろなところに顔を出して人間関係を広げるなどの努力をしているとわかった」

この順調さから、来年の法人化の検討もしているという里村院長。「歳をとってからの開業は大変だと言われますが、大変だからこそ健康にも気を使うし無理もしません。適度な緊張感もあるので病気にも罹りにくくなった」と、笑って答えるその顔には、充実感が見て取れた。開業には早い遅いはない、そう感じた。
 
富士見メンタルクリニック
住所 〒345-0018
埼玉県富士見市西みずほ台1-21-4
標榜科目 心療内科、神経科、精神科
医療設備 血圧計、他
延べ床面積 24.17坪
物件形態 ビル診
スタッフ数 常勤医師:1名
臨床心理士:2名(週1日ずつ)
受付事務:3名(常時2名、交代制)
開業資金 1,500万円

2002.2.1掲載 (C)LinkStaff


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