クリニックの窓教えて、開業医のホント

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横山医院

 神奈川県横浜市保土ケ谷区は横浜市の中央部であり、区のほとんどが住宅街である。区の東西を相模鉄道本線が通っている。星川駅は快速停車駅であり、駅の北側は保土ケ谷区役所や保土ケ谷警察署などの官公庁街となっている。
 横山医院は相模鉄道本線星川駅から徒歩7分、官公庁街を抜けた場所に位置する。横山正現院長のお祖父様である横山晃也医師が1953年に開業した医院で、65年にわたって地域医療に打ち込んできた。その後、現院長のお父様である横山新一郎医師が引き継ぎ、2017年に現院長が継承した。現院長は整形外科、前院長は内科、小児科が専門であるが、最近では院長のお兄様である横山太郎医師が加わり、腫瘍内科や緩和ケア科も新しい標榜科目となった。
 今月は横山医院の横山正院長にお話を伺った。

田中 賢 院長

院長先生のプロフィール

1982年に東京都大田区で生まれる。2007年に藤田保健衛生大学を卒業後、中部労災病院で初期研修医となる。2009年に東海大学外科学系整形外科学教室に入局し、東海大学医学部付属病院で後期研修を行う。2011年に池上総合病院に勤務する。2012年に塩田病院に勤務する。2016年に東海大学医学部付属大磯病院に勤務する。2017年に横山医院を継承する。


日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本整形外科学会認定リハビリテーション医、身体障害者指定医(肢体不自由)など。日本骨粗鬆症学会、日本運動器学会、日本骨折治療学会、神奈川県臨床整形外科医会、日本在宅医学会にも所属する。

開業に至るまで

病院風景02

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 父が医院を開業していましたから、自然に目指したという感じです。兄が医学部に進学したことも大きかったです。兄は両親から医師を勧められていましたが、私は何も言われていなかったんです。でも、実家の医院を皆でやっていけたらなという思いが漠然とありましたね。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 中学、高校とバレーボールをしていましたので、大学でも当然のように勧誘されました。そのままバレーボール部に入り、6年間続けました。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 スノーボードが趣味でした。大学が愛知にあったので、冬になると岐阜のスキー場に毎週のように通っていました。


◆ 専攻を整形外科に決められたのはいつですか。
 ずっとスポーツをしてきましたのでスポーツ整形に興味がありましたし、大学の解剖の授業も好きだったんです。大学5年生のときにポリクリで整形外科に行ったときに改めていいなと思いました。ほかの診療科はシビアな場面が多いですが、整形外科は雰囲気が明るいのも良かったです。スポーツが好きなことを活かせそうでしたし、人工関節の手術をやってみたかったこともあり、整形外科に決めました。


◆ 中部労災病院で初期研修をなさったのですね。
 出身は神奈川県ですし、こちらに戻ることも考えたのですが、大学時代を過ごした愛知県には友人や知り合いも多く、もう少し愛知にいたかったので、愛知の病院で初期研修をすることにしました。中部労災病院を選んだのは救急で初期研修医がファーストタッチをしていることやカンファレンスや勉強会を熱心に開催していることが良かったからです。


◆ 東海大学に入局されたのはどうしてですか。
 中部労災病院には脊椎外科で有名な加藤文彦先生がおられますが、加藤先生のところにたまたま東海大学の先生が勉強にいらっしゃっていたのです。それで、その先生とご縁ができて、東海大学に見学に行ったのがきっかけです。中部労災病院の整形外科は名古屋大学の関連病院なので、後期研修もそのまま残って名古屋大学に入局するのか、母校の医局に入局するのか、地元に帰るかで迷っていて、地元の大学病院に見学に行ったりもしていたのですが、東海大学から誘っていただいたこともあり、後期研修を東海大学で行うことにしました。


病院風景03

◆ 東海大学医学部付属病院での後期研修はいかがでしたか。
 大学病院ですし、患者さんを断らない三次救急の病院でもありますから、忙しかったです。しかし、外傷もスポーツ整形も多くの症例を経験することができました。カンファレンスなども大変でしたが、勉強の日々でした。


◆ それから市中病院に移られたのですね。
 大学病院よりも市中病院で仕事がしたくなり、ずっと「外に出してください」とお願いしていたんです。そこで関連病院の塩田病院に行くことになりました。塩田病院は重症感のない高齢者の患者さんが多く、人工関節置換術などの手術症例を積むことができました。その後に勤務した東海大学医学部付属大磯病院は大学病院と市中病院の中間のような位置づけの病院でしたので楽しかったですし、上司がスポーツ整形の専門医だったこともあり、スポーツ整形の勉強も頑張りました。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 大変でしたが、楽しい毎日でしたね。色々な先生方と親しくなることもできました。開業の可能性もあったので、常に開業時に必要な知識や技術をと考えながら仕事をしていました。


開業の契機・理由

病院風景04

◆ 継承の動機をお聞かせください。
 4年前に塩田病院に勤務していたときに、週に1回は父の手伝いでこちらに来ていたのです。父はもともと血液内科医で、開業後は内科と小児科を診ています。私は父が診ていた患者さんで整形外科領域が気になる方を対象に外来をしていました。週に1回の整形外科外来ですから、最初は患者さんの数が少なかったのですが、何年か経つと患者さんが増えてきたので、塩田病院のある勝浦市から行ったり来たりするのがきつくなってきたんですね。私どもでは祖父の代から在宅診療を行っていることもあり、理学療法士である弟が訪問リハビリをしているのですが、その患者さんも増えてきたので、「そろそろ帰ってこようか」と父に相談したんです。勤務医時代に行っていた手術は楽しかったし、開業医は大変そうだと思いましたが、2年前に子どもが幼稚園に入るタイミングでこちらに戻ると決めました。


◆ 開業地を改めてご覧になったときの印象はいかがでしたか。
 駅に近い場所ではありますが、国道16号線から1本入ったところですので、良い立地かどうかは分からなかったですね。祖父が開業したときは高台にあったらしいのですが、しばらくして現在地に移ってきたそうです。父の代で木造から今の建物に建て替えましたが、私の代でさらに建て替えを行う予定にしています。


◆ 継承にあたり、マーケティングをなさいましたか。
 整形外科に関しては診療圏調査を行いました。このあたりは整形外科のクリニックが多かったので心配だったのです。しかし調査上では1日60人と出ましたので、少し安心できました。整形外科のクリニックは確かに多いのですが、手術以外で最も大事とされる運動器リハをしているところがあまりなく、私どものように理学療法士を雇用しているところや介護保険をしているところもほとんどなかったので、そういった分野に力を入れれば何とかなるのではと思いました。私が継承後に運動器リハを本格的に始めましたが、運動器リハの患者さんの数はお蔭様で順調に伸びています。


◆ 継承までに、ご苦労された点はどんなことですか。
 父と意見が食い違うことが多かったことでしょうか(笑)。そのたびに話し合いをしていました。


◆ 医師会には入りましたか。
 継承するタイミングで保土ケ谷区医師会に入会しました。


◆ 継承当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 看護師が1人、事務スタッフが1人いましたが、私が継承する頃にどちらも退職することになったので、看護師も事務スタッフも募集を行いました。妻が看護師ですので、難しいことは色々と助けてもらいましたね(笑)。父は全部を自分でやりたがるタイプなのですが、私は割と人に任せることができますので、治療などに注力できています。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 継承するまで週に1回の勤務をしていましたので、医療設備については熟知していました。父が使っていたレントゲンはあくまで内科用で、整形外科だと見落としが出てきそうな気がしたので、レントゲンは買い替えを行いました。超音波もあったのですが、私は勤務医時代に超音波の勉強をしていましたので、自分の好みのものに買い替えました。今後は電子カルテを替えたいと思っています。緩和ケアを専門にしている兄が戻ってきたこともありますし、在宅診療の現場でカルテを見ることができるクラウド型の電子カルテにしたいのです。そうすると、自宅でも入力できますし、タイムリーなタイミングでリハビリとの連携ができたり、スタッフ間の情報共有が容易になりますので、患者さんにとっての利益も大きくなります。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 もともと診療室が2つあり、内科と整形外科で分けて使っていたのですが、内科の方が大きい部屋を使っていたのです。しかし、整形外科はギプスを巻くなどの大がかりな処置があるので、大きい診療室に変えました。今後は兄の診療室を含めたものにするべく、改装予定となっています。


クリニックについて

病院風景05

◆ 診療内容をお聞かせください。
 整形外科、リウマチ科、リハビリテーション科、腫瘍内科、緩和ケア科、内科、小児科、訪問診療を標榜しています。私が整形外科、認知症サポート医である父が内科や小児科、がんの専門家である兄が腫瘍内科や緩和ケア科を診ています。そして3人の医師全てが訪問診療をして、持続皮下注射なども行っています。
 整形外科では一般整形外科、スポーツ整形外科、小児整形外科を診ています。骨折、骨粗鬆症、ロコモティブシンドロームなどが多いですね。装具外来も行っています。特に力を入れているのがリハビリテーションです。私どもでは広いリハビリ室を確保し、理学療法士が患者さんとマンツーマンで機能回復を行っています。物理療法の機械も最新のものを取り入れています。
 内科は生活習慣病などの一般内科はもちろんですが、認知症サポート医として認知症外来、禁煙指導医として禁煙外来も行っています。AGA外来やED外来も実施しています。また、小児科の一般診療や乳幼児の予防注射や乳児健診も行っています。
 腫瘍内科や緩和ケア科では兄の経験を活かし、患者さんの苦痛を和らげることのみならず、患者さんの「意思決定支援」にも取り組んでいます。どういう時期にでも関われるように、訪問診療だけでなく、外来も行っています。病院での治療とともに行えることが特徴です。


◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
 整形外科は忙しいので素早く診療しがちですが、在宅医療を始めてからは患者さんの背景や生活環境に踏み込んで診療にあたらないといけないということを改めて感じています。私どもの整形外科の方針としては痛みのある箇所の診断をつけて、治療をしようということです。レントゲンでは骨しか見えないのですが、エコーではレントゲンで異常がなかったところも分かります。肩こりや腰痛にもエコーを使って、エコーを見ながら痛いところを治療します。薬は全身に効くので副作用が起きますが、エコーを使うことでピンポイントでの治療が可能になります。エコーの重要性が言われ始めており、私も駆使していますが、今後も勉強していきたいですね。それからリハビリです。私どもでは運動器リハに力を入れています。急性期から慢性期にかけての患者さんには通所リハも行っていますし、訪問リハもあります。訪問診療も同様ですが、最後まで絶え間なくケアをしていきたいと考えています。


病院風景06

◆ 患者さんの層はいかがですか。
 子どもさんから高齢者まで万遍なくいらしています。横浜国立大学に近いので、学生さんも多いですね。若い患者さんは知識が豊富ですので、薬を出すだけではいけません。納得していただけるような丁寧な説明を心がけています。


◆ どのような内容の検診を行っていらっしゃいますか。
 検診は父がお受けしています。横浜市の検診などが中心です。乳児健診も行っています。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 神奈川県立こども医療センター、聖隷横浜病院、国立病院機構横浜医療センター、横浜市立市民病院、横浜市立脳卒中・神経脊椎センター、横浜市立みなと赤十字病院などと連携しています。


◆ 経営理念をお教えください。
 理学療法士を積極的に雇用するのは経営だけ考えると良くないのですが、リハビリは大事ですので、そこは気にせずに雇用しています。リハビリの患者さんが増えれば、サブリミナル効果のように、ほかの患者さんが増えるのではないかと期待できますし、宣伝効果にもなっています。一方で、在宅医療も頑張っていきたいですね。在宅では色々なことが見え、治療だけではない面白さを味わっています。兄が加わりましたので、訪問看護も始めていきたいと考えています。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 朝の外来前に朝礼を行っています。本当は昼にミーティングをしたいのですが、訪問診療のご予約で埋まってしまうので、朝しか時間がないのです。ときどきスタッフと面談を行ったり、理学療法士とは一緒に食事に行ったりして、話を聞いています。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 クリニックはオレンジをテーマカラーにしています。また、ロードサインとしての看板を2カ所、電柱広告を10本ほど出しています。高台にお住まいの方はクリニックがなくて困っているようですので、電柱広告はそういったエリアが中心です。父の代では内科、小児科でしたので、継承後は整形外科をしていることをお知らせしていきたいと考えています。


開業に向けてのアドバイス

病院風景07

 クリニックには事務長がいた方がいいです。医師にとっては面倒な仕事をしてくれる人、そういった仕事が好きな人はいるはずなので、開業にあたっては事務長の採用も考えてみてください。
 整形外科の勤務医は一人ではレントゲンを撮ることができませんし、保険点数のこともよく知りませんが、開業後は一人でレントゲンを撮ったり、保険点数を把握しないといけないので、勤務医時代に一通りのことをマスターしておかれることをお勧めします。開業したら、勤務医時代のように手術をする機会がありません。したがって、手術以外の治療法で得意分野を見つけておきましょう。その点では超音波はいいですね。
 今の開業医は在宅現場での需要があります。しかし、在宅現場では整形外科の知識だけでは通用しません。スムーズに仕事をしようと思うと、在宅医療や介護保険の知識が必須です。

プライベートの過ごし方(開業後)

病院風景08

 今もサーフィンが趣味で、湘南の海に行っています。ときには勝浦に行くこともありますよ。私どもは医師3人体制ですので、比較的自由が利きやすいのが良いところだと思っています。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図
横山医院
  院長 横山 正
  住所 〒240-0064
神奈川県横浜市保土ケ谷区峰岡町2-118
  医療設備 超音波、心電図、レントゲン、ウォーターベッド、リハビリベッド、牽引ベッド、姿勢矯正鏡、平行棒、ニューステップ、モービィ、段差、スパイロメーター、重心動揺計、干渉波、牽引機、ホットパック、マイクロウェーブ、メドマー、電子カルテなど。
  スタッフ 20人(院長、常勤医師2人、常勤看護師1人、非常勤看護師1人、非常勤臨床検査技師1人、常勤理学療法士4人、非常勤理学療法士3人、非常勤管理栄養士1人、常勤事務2人、非常勤事務4人)
  物件形態 戸建て
  延べ面積 約300m²
  敷地面積 約400m²
  開業資金 0円
  外来患者/日の変遷 継承当初40人 → 3カ月後50人 → 6カ月後70人 → 現在100人
  URL http://clinic-yokoyama.com/

2018.06.01 掲載 (C)LinkStaff

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