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赤羽静脈瘤クリニック

 東京都北区赤羽は「東京の北の玄関口」として、古くから複数の商店街が賑わいを見せているエリアである。街の中心であるJR赤羽駅は京浜東北線、埼京線、湘南新宿ライン、宇都宮線、高崎線が通り、1日に9万人を超える乗降者数があるほか、近年では駅のリニューアルが進み、いわゆる駅ナカの商業施設も充実している。
 赤羽静脈瘤クリニックはJR赤羽駅の北口改札東口から徒歩3分の場所に2015年に開業したクリニックである。赤羽静脈瘤クリニックでは静脈瘤治療に特化し、血管内高周波治療、硬化療法、弾性ストッキング、スタブ・アバルジョン法、ストリッピング手術などの治療を行っている。
 今月は赤羽静脈瘤クリニックの岡本慎一理事長にお話を伺った。

岡本 慎一 理事長

岡本 慎一 理事長プロフィール

1976年に京都府京都市で生まれる。2002年に京都府立医科大学を卒業後、京都府立大学整形外科に入局し、京都府立医科大学附属病院で研修を行う。2004年にがくさい病院に勤務する。2006年に綾部市立病院に勤務する。2007年に京都府立医科大学附属病院に勤務する。2008年に京都府立大学大学院に入学し、2012年に修了する。2012年に新宿血管外科クリニックに勤務する。2015年2月に東京都北区に赤羽静脈瘤クリニックを開業する。2018年4月に石川県金沢市に赤羽静脈瘤クリニックの分院を開業する。


下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、日本脈管学会脈管専門医、日本整形外科学会専門医、弾性ストッキング・コンダクターなど。日本血管外科学会、日本静脈学会、日本抗加齢医学会にも所属する。

開業に至るまで

病院風景02

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 高校時代は手先が器用で細かい作業をしたり、デザインが好きだったこともあって、建築家を目指していました。それで建築学科を受験したのですが、不合格になってしまったんです。しかし、クラスの女の子が医学部に受かったのを見て、驚きました。医学部に行く人がほとんどいないような公立高校でしたし、医師になるという選択肢は全くなかったのですが、女の子の合格を知り、私にもなれるのではないかと思ったんですね。それで翌年、医学部を受験しました。どこかで建築士や医師という国家資格への憧れもあったのかもしれませんね。手先が器用なことは分かっていましたし、医師の中でも建築と共通する資質が求められる外科系に進みたいという希望も医学部入学当初からありました。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 当時の大学は今のように出席に厳しくなかったので、学校にはあまり行かなかったです。飲食店のアルバイトをしたり、医学部の中で固まらず、色々な人と会うようにしていました。アルバイト先はバーだったり、和食店だったりしたのですが、和食店では料理も覚えました。実家から通っていたので、母に突然、鯖の味噌煮を作って出したら、驚いていました(笑)。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 音楽です。バンドを作って、私はドラムをしていました。若気の至りで医学部を辞めて、プロのミュージシャンを目指そうとしたほどだったのですが、プロの方から「止めておけ」と言われたので、諦めました(笑)。


◆ 専攻を整形外科に決められたのはいつですか。
 卒業する直前です。外科系とは決めていたのですが、一般的な外科だと心臓血管外科をローテートする必要があり、ワーク・ライフ・バランス的にも厳しそうだと思いました(笑)。整形外科は病棟の雰囲気が明るく、治る疾患が多いことが良かったです。ただ、入局してみると、思ったほど楽ではありませんでした。


◆ 母校の医局に入局されたのですね。
 京都は医局の力が強く、9割以上の人が母校の医局に所属しますので、選択肢がないんです。京都府立医科大学は一生をかけて回れるぐらいの数の関連病院があります。私も医局人事で色々な病院に勤務しながら、どの病院でも外来や手術に取り組んでいました。


病院風景03

◆ 大学院にも進まれています。
 大学院では再生医療のPRP療法の研究に取り組みました。PRPとはPlatelet Rich Plasmaの略で、多血小板血漿療法のことです。血液中の血小板には組織修復を促進する成長因子やサイトカインなどの分子が多く含まれており、その分子が組織再生や創傷治癒を促進させます。最近ではニューヨーク・ヤンキースの田中将大選手がこの治療を行ったことで、一般の方々にも知られるようになってきましたが、当時は先端の研究でしたね。この研究を形にし、大学院を修了するタイミングで医局を辞める決意をしました。


◆ それで転職されたのですね。
 大学院を終えて医局に戻るとなると50人の中の1人になります。私としては整形外科医を10年やったので、同じキャリアを繰り返すよりは転職してキャリアアップをしたいと考えました。美容外科にも興味があったので、大手の美容外科グループの一部である新宿血管外科クリニックに勤務しました。最初は美容外科もしていたのですが、美容外科にはカリスマ医師もいますし、医師数自体が多く、立ち向かおうとしても追いつくのが大変です。私は争いごとが好きではないんです(笑)。では何をしていこうかというときに、下肢静脈瘤手術に出会ったのです。


◆ 下肢静脈瘤手術にどのような衝撃を受けたのですか。
 需要に対して、供給が足りておらず、潜在的な患者さんはこれからも増加するだろうと思いました。瘤ができるのは10人に1人と言われていますが、超音波で見ると30代は2人に1人は瘤があるのです。そういう方々にこの手術を広めていきたいと思いましたね。美容外科は医療の一大分野となりましたが、下肢静脈瘤にも同じものを感じました。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 大きな組織に所属するのは大変ですし、あちらこちらで違うことを言われて、這いずり回ることもありました。しかし、勤務医時代のような厳しい時代があったからこそ、今こうして仕事もプライベートも満足しているのだと思います。


開業の契機・理由

病院風景04

◆ 開業の動機をお聞かせください。
 新宿血管外科クリニックには3年ほど勤務しましたが、下肢静脈瘤手術に出会って、これだと感じ、自分のクリニックを持とうと考えていました。早く開業しなければ意味がないし、それは時間との戦いだと分かっていましたので、下肢静脈瘤手術に出会って数カ月後から準備を開始しました。私は経営が好きで、医療とは関係のない会社を立ち上げてみたいと思ったこともあったぐらいなので、開業志向も強かったんですね。しかし、そういう経営の勉強をしていたからこそ、時代の流れに合わせられるし、下肢静脈瘤手術に気づける目を養えていたのではないでしょうか。


◆ 開業地をどのようにして選ばれたのですか。
 下肢静脈瘤手術ができるクリニックは近くに何軒もある必要はありません。ほかのクリニックができる前にブランドを確立するためにも早さが大切でしたから、競合のない赤羽を選びました。赤羽駅にはJRの5路線が通っていますので、交通面は非常に恵まれています。当時は埼玉県に下肢静脈瘤手術のできるクリニックがなく、患者さんも多いので、埼玉県からのアクセスの良い赤羽は魅力でしたね。今は大宮にクリニックができましたが、下肢静脈瘤手術自体が既に認知されていますし、クリニックができることで認知が広まる面もありますから、患者さんの奪い合いもありません。


◆ 開業地の第一印象はいかがでしたか。
 ふわっとした、温かい雰囲気が気に入りました。1階に飲食店が入っているビルや冷たそうなビルは避けたかったのですが、ここの1階はクリーニング店と薬局でしたし、その点も良かったです。


病院風景05

◆ 開業にあたり、マーケティングをなさいましたか。
 していません。静脈瘤のクリニックは特殊ですので、インターネットを検索する程度で大丈夫でした。


◆ 開業までに、ご苦労された点はどんなことですか。
 何千万円というお金を借り、スタッフを集めたのに、患者さんがいらっしゃるのかという不安との戦いでした。また、下肢静脈瘤手術には脈管専門医の資格が必要なのですが、学会や勉強会に通わなくてはならず、取得が大変なんです。早く開業したかったので、開業準備と同時に資格取得も進めましたが、開業物件が決まったのに、資格取得がまだできていないという状況も辛かったです。


◆ 医師会には入りましたか。
 開業と同時に、東京都北区医師会に入りました。私は地の利がないからこそ、医師会への入会は必須だと思ったんです。開業前には20軒ほどのクリニックにご挨拶にも伺いましたよ。今は医師会の先生方とも顔見知りになれ、認知していただいているので、患者さんのご紹介を受ける機会も多いです。


◆ 開業当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 看護師が1人と事務スタッフが2人で、いずれも常勤です。ハローワークで募集を行ったところ、すぐに充足しました。


病院風景06

◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 高周波と超音波の2つで足ります。電子カルテも導入していません。電子カルテは複数の処方を出す医療機関には向いていますが、私どもの疾患は一つですので、紙カルテの方が早いですね。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 内装や装飾をこだわりすぎないようにしています。患者さんは病気を治しに来ているので、そこまで内装をご覧になりません。ただ、手術室が必要ですので、大きさにはこだわり、約50坪を確保した物件にしました。開業して3年以上が経ちましたが、使い勝手はいいですよ。


クリニックについて

病院風景07

◆ 診療内容をお聞かせください。
 血管外科を標榜し、下肢静脈瘤の日帰り手術に特化しています。以前はストリッピング手術が一般的でしたが、2011年に下肢静脈瘤に対する血管内治療が保険認可されましたので、私どもでも行っています。血管内治療は逆流している静脈の中にカテーテルを通し、高周波やレーザーによって発生した熱で静脈を塞ぐ手術です。皮膚を切らないので、縫合の必要がありませんし、血管内の治療ですから、足へのダメージが非常に小さいことが最大の利点です。術後の痛みや腫れもほとんどありません。施術時間は30分程度ですから、日帰りが可能なのです。静脈弁に逆流がないと診断がついた軽度な場合は硬化療法を選択します。こちらですと、治療時間は10分ほどです。さらに軽度な症状の場合は弾性ストッキングを着用する方法もあります。患者さんの症状に合わせて、最善の治療方法を提案させていただいています。


◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
 治療では手術をなるべく短時間で終え、痛みがないように心がけていますが、治療以外でも患者さんにストレスを与えないように様々に工夫しています。例えば待ち時間を作らない、接遇研修をするなどですね。細かいことですが、エコーゼリーを温めておくなども喜ばれます。外国人の患者さんも多いので、英語と中国語のホームページも作っています。語学に堪能なスタッフがいるため、手術の同意書も英語と中国語を用意しています。また、私たち医師もスタッフも接遇を重視し、医療者だからと「上から目線」にならないようにしています。


病院風景08

◆ 患者さんの層はいかがですか。
 70代の女性が最も多いのですが、意外に男性の患者さんも少なくなく、3割を占めています。私がテレビに出演したあとだと、都内や埼玉県はもちろんですが、千葉県や神奈川県からの患者さんもいらっしゃいます。インドネシアやネパールの方が「YouTubeで見た」と言って、来院されたこともありました。「何かのついでですか」と尋ねたら、「このためだけに来た」とおっしゃっていました(笑)。


◆ どのような内容の検診を行っていらっしゃいますか。
 下肢静脈瘤に特化しているクリニックですので、一般的な検診はお受けしていません。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 近隣の病院から下肢静脈瘤の患者さんをご紹介していただくことが多いです。また、日本大学医学部附属板橋病院や東京北医療センターなどと病診連携の体制を整えていますので、万が一、深部静脈血栓症や肺塞栓症などが起きた場合でもすぐに搬送できます。ただ、開院以来、一度も搬送したことはありません(笑)。そういった重大な合併症ではなく、手術後も皮膚炎が良くならないなどの患者さんには近くの皮膚科の先生をご紹介することがあります。


◆ 経営理念をお教えください。
 現状に満足せず、患者さんの満足度を上げるための工夫を継続することが大事だと思います。小さな工夫を積み重ねることが大きな満足感に繋がります。クリニックを開業すると利益追求に傾きがちですが、いくら宣伝や広告をして患者数が増えても治療を受けて満足してもらえなかったクリニックの規模はいずれ縮小していくでしょう。私の好きな言葉にGive & Giveというのがあります。自分の見返りは考えず、患者さんに心から満足してもらう。そうして利益がおまけでついてくる、そのような理念で経営しています。
 今年4月に石川県金沢市に分院をだします。金沢院以外にもいくつか分院を作ろうと思っていますが、どれだけ分院を作っても、先ほど申し上げた理念はご勤務いただくドクターにしっかり伝えていこうと思っています。


病院風景09

◆ 分院を展開されるなら、医師も必要ですね。
 現在、医師の募集を行っています。私どもで指導させていただきますので、出身科は問わず、下肢静脈瘤未経験の先生でも2、3カ月の研修で習得していただけます。ただ、初期研修を終えたばかりの方よりはある程度の経験を積んでこられた方がいいですね。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 勉強会などはしておらず、日々の仕事の中で教えていっています。大切なことはもとから良くできているスタッフを採用することです(笑)。そうすれば、特別な教育が不要です。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 ホームページやブログのほか、電車で30分以内が診療圏だと捉えているので、駅の看板も赤羽、北赤羽、浦和、川口など、5、6駅ぐらい出しています。赤羽駅前のバス停やバスの車内アナウンス広告も行っていますが、これは高い効果がありますね。赤羽駅を終着する路線以外のバスでも出しています。それから電柱広告も100本ほど、出稿しています。また、テレビに出演したことも増患に繋がっているようです。


開業に向けてのアドバイス

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 勤務医のときだと手術さえしっかりすれば患者さんへの接し方は二の次という考え方の先生が多いように見受けますが、その考え方だと難しいです。クリニックは患者さんに選んでもらう側だと認識し、接遇など、患者さんへの接し方を見直す必要がありますね。私自身も完璧にできているとは言い難いですが、できるだけ患者さんに優しく、患者さんが話しやすいと思ってくださるように心がけています。是非、意識して、強化していただければと思います。

プライベートの過ごし方(開業後)

病院風景10

 自宅ではアクションものの海外ドラマを見ています。海外旅行も趣味で、特に東南アジアのリゾート地でのんびりするのが好きです。開業医になってからは休みも自分で決められますし、時間も贅沢に使えるのがいいですね。勤務医時代にはできなかったことを楽しんでいます。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図
赤羽静脈瘤クリニック
  院長 岡本 慎一
  住所 〒115-0045
東京都北区赤羽2-15-10 山田ビル2階
  医療設備 高周波、超音波など。
  スタッフ 9人(理事長、院長、常勤看護師3人、常勤臨床検査技師1人、常勤事務3人)
  物件形態 ビル診
  延べ面積 約50坪
  敷地面積 約50坪
  開業資金 約5,000万円
  外来患者/日の変遷 開業当初10人→3カ月後30人→6カ月後30人→現在40人
  URL http://akabane-clinic.jp/

2018.04.01 掲載 (C)LinkStaff

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