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こいわ内科眼科

佐野 裕之 院長

佐野 裕之 院長プロフィール

福島県南会津郡で生まれる。千葉大学を卒業後、千葉大学第二内科(現 糖尿病・代謝・内分泌内科)に入局し、千葉大学医学部附属病院、千葉県救急医療センター、千葉県立東金病院で研修を行う。熊本大学医学部大学院に在学中は、西熊本病院に非常勤として勤務する。大学院修了後、Dartmouth Medical School, Department of BiochemistryにSenior Research Associateとして勤務する。2015年10月に東京都江戸川区にこいわ内科眼科を開設する。


日本内科学会認定医など。日本糖尿病学会、American Diabetes Associationにも所属する。

 東京都江戸川区南小岩はJR総武本線の小岩駅の南側を占める住宅街である。東に江戸川が流れ、街を柴又街道が縦断している。柴又街道は東京都道307号線の通称で、北区王子駅前から江戸川区に至る主要幹線道路である。
 こいわ内科眼科は江戸川区南小岩2丁目に2015年10月に開業したクリニックである。小岩駅から徒歩18分と少し距離はあるが、小岩駅と東京都営地下鉄新宿線の瑞江駅との間に路線バスが通っており、バスに乗れば両駅から10分足らずのアクセスとなっている。こいわ内科眼科は佐野裕之院長が内科、奥様の佐野英子医師が眼科を診療している。佐野院長の専門は糖尿病内科だが、開業後は専門にこだわらず、プライマリケアや健康診断なども積極的に行い、地域医療に貢献している。
 今月はこいわ内科眼科の佐野裕之院長にお話を伺った。


開業に至るまで

病院風景02

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 両親は医療従事者ではなかったのですが、叔父や従兄弟など、親戚に医師が多かったんです。小さい頃にはよく診察室にお邪魔していましたし、医師を目指すにあたってはそういう環境で育ったことが大きいですね。高校時代に数学好きの友人がいました。彼が僕に向かって熱心に数学や物理学の道に誘うんですよ。そんなこともあって一時期はその道に憧れた時期もあったのですが、才能がないことを悟り、諦めてしまいました(笑)。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 勤勉とは言い難かったですね(笑)。スキー部に入り、競技スキーに打ち込んでいました。冬の間は遠征が多くありましたが、楽しかったですね。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 マイルス・デイヴィスなどのジャズが好きでした。当時は日本にブルーノートができたばかりの頃です。でも、ブルーノートには滅多に行きませんでしたね。


◆ 専攻を内科に決められたのはいつですか。
 5年生のときです。大学に入学した当初はなんとなく外科が向いているかなと感じていました。周りからもそのように見られていたような気がします。ところが、第二内科の吉田尚教授に出会い、教授の教養溢れる佇まいや人格に惹かれ、第二内科に入局することを決めました。


病院風景03

◆ その中で糖尿病を選ばれたのはどうしてですか。
 卒業して3年間は内科全般を研修していましたが、専門を決めるときに糖尿病グループの講師でいらした牧野英一先生からお声をかけていただきました。牧野先生は現在、愛媛大学の名誉教授でいらっしゃいます。糖尿病の基礎研究に興味を持ちましたし、研究室の雰囲気は私に合っているとも思いましたね。研修医時代に千葉県救急医療センターの循環器科で心筋梗塞の患者さんを診ることが多かったのですが、大血管障害の原因として糖尿病や脂質異常を学ぶ必要があると考えたことも動機になっています。


◆ 熊本大学の大学院に進学されたのですね。
 糖尿病合併症の要因の一つにAGE(糖化蛋白最終生成物)があります。熊本大学の堀内正公教授は世界的にもこの分野のリーダーの一人でおられたので、私も堀内教授のもとで勉強させていただきました。その間、西熊本病院で糖尿病の専門外来を非常勤として担当したのですが、病院からもスタッフからも良くしていただきました。


◆ アメリカに留学された経緯をお聞かせください。
 熊本大学でAGEを研究したのは糖尿病合併症解明のためですが、アメリカでの研究テーマはインスリン作用を選択しました。この分野はもともと千葉大時代に取り組んでいたからです。ハーバード大学のジョスリン糖尿病センターに留学される研究者は多くいましたが、私は同じアメリカ東部のダートマス大学を選びました。インスリン作用に重要なインスリン受容体基質うち2つはジョスリンの研究室が発見し、ダートマス大学のLienhard教授の研究室も2つ発見していました。ダートマスはボストンから車で2時間の自然が美しい小さな田舎街にあり、当時2歳だった娘を連れて、家族で赴任しました。その後、16年に渡って、ダートマスで研究を続けました。


◆ アメリカではどういったお仕事をなさっていたのですか。
 インスリン作用を制御するタンパク質についての研究です。既に重要なタンパク質は幾つか発見されていましたが、血糖値を下げるインスリン作用が全て解明されていたわけではありません。実験を繰り返し、新規Akt基質としてのAS160/TBC1D4を始め、幾つか成果を出す機会に恵まれました。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 医学部を卒業したのはバブルの頃でしたが、必死で頑張っていましたし、忙しかったですね。医師としての基礎を固める時代に、先輩や仲間に恵まれて過ごすことができました。糖尿病を中心とした臨床の先生と繋がりを持てたことは、開業前後の相談やアドバイスをいただくうえで大変役に立っていると思います。また、熊本は糖尿病の研究や臨床が盛んな土地です。当時の熊本には熊本大学の荒木栄一先生(現教授)、七里元亮教授、日本を代表する糖尿病の病院である陣内病院の陣内冨男理事長などがご活躍されていました。熊本での4年間はその後の臨床と研究に大いに役に立っています。


開業の契機・理由

病院風景04

◆ 開業の動機をお聞かせください。
 アメリカで東日本大震災を知り、日本人として、人々の身近なところで貢献したいという気持ちが芽生えてきました。日本に帰り、臨床医として少しでも日本のために力になりたいと思いました。


◆ 開業地はどのように探されたのですか。
 ここは妻の実家で、妻の母が竹中医院を開業していたのです。義母は私どもが開業する6年ほど前に亡くなり、医院もクローズしていました。開業にあたってはこの場所しか考えていませんでした。


◆ 開業地を改めてご覧になって、いかがでしたか。
 妻の実家だったところですから、以前からよく知っていた場所です。庶民的な下町という印象ですね。最寄りのバス停からは近いものの、小岩駅からの距離がややありますので、駐車場は3台分を確保しました。


◆ 開業にあたって、マーケティングはなさいましたか。
 信頼する友人の紹介でコンサルタントに出会い、その方に診療圏調査をお願いしました。都内での開業は競合が多く、マーケティングの意味がないと思いましたが、そのコンサルタントはシビアな見方をしますし、駄目なら駄目と言う人ですが、彼から「この場所なら可」と言われたので、安心できました。彼とは恵まれた出会いでした。


◆ 開業までに、ご苦労された点はどんなことですか。
 開業を決めてから具体的に行動し始めたのが開業1年前でしたので、スケジュール管理に苦労しました。全てが初めてのことですから、肉体的にもきつかったですね。毎週のように専門家と会ってミーティングがあります。説明を受けてから決断するまでに十分な時間が持てないことがとてもストレスでした。先に開業した友人たちから聞いてはいましたが、まさにその通りでした。この状況は開業して半年後ぐらいまで続きました。開業してしばらくは患者さんが少ないにも関わらず、何かと仕事(雑用)が多くありました。


◆ 医師会には入りましたか。
 江戸川区医師会に入っています。


病院風景05

◆ 開業当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 看護師2人、眼科検査員1人、事務スタッフ4人です。このうち看護師1人が常勤で、ほかのスタッフは非常勤でした。求人を出してすぐに応募がありましたので、スタッフ集めには苦労がありませんでした。結果的にはスタッフに恵まれたと思います。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 内科に関しては最低限のものでスタートしようと決めていました。眼科は開業後に2つの検査機器を新しく導入しました。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 奇抜でなく、ごく普通の内装を心がけました。クリニックらしさをなるべくなくし、「普通のおうち」のような温かみのある雰囲気にしています。診察室を2つ作りましたが、それぞれの広さは十分にとってあります。一般的なクリニックよりも広めではないでしょうか。圧迫感があると、私も患者さんも気が滅入りますから、スペースを広く確保しました。お手洗いも広くしています。待合室の天井が高いので、明るい印象になっていると思います。


クリニックについて

病院風景06

◆ 診療内容をお聞かせください。
 内科は糖尿病を中心に、高血圧、脂質異常症、痛風などの生活習慣病を診ていますが、現在、糖尿病の患者さんは全体の3割ほどです。一般内科の医師が糖尿病を診る際には、薬やインスリンの使い方、あるいは合併症の知識をはじめとする専門性が求められ大変かもしれません。糖尿病を長く診ている医師にとっては糖尿病患者さんを診るのはさほど苦になりません。むしろ、私にとってはプライマリケアの方が大変ですね。また、糖尿病治療では血管障害の予防や進展阻止が重要目標ですから、同様の目的で禁煙外来も行っています。
 眼科は火、金、土が診療日です。疾患としては白内障、緑内障、加齢黄斑変性症が多いですね。糖尿病網膜症の患者さんには内科と眼科がスムーズに連携して治療にあたっています。
 糖尿病の患者さんを対象に、管理栄養士による食事や栄養指導を月に2回、1回30分から45分かけて行っていることも特徴です。また、患者向けの無料相談会や医療関係者向け勉強会も月1回程度開催しています。医療関係者向けの勉強会はインスリン作用やAGEについてのお話をしていますが、一般の方でも興味のある方々にお越しいただいています。無料相談会は糖尿病を中心に初心者向けに幅広くお話ししています。


◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
 患者さんに無理をさせないことです。患者さんには自然のままでいていただきたいと考えています。患者さんが取り繕うことなく、ありのままの状態を見せてくださったり、どんなお悩みでも包み隠さず話してくださるような関係を築けたらと思っています。私自身も自然体でありたいですね。


◆ 患者さんの層はいかがですか。
 内科は高齢者が9割を占めます。近隣に小児科が3軒ほどあるので、専門性のある小児科疾患はそちらにお任せしています。一方で、眼科は子どもさんが4割です。近くに小学校もありますし、学校健診後の受診が多いです。
 義母の医院はクローズして6年も経っていましたが、新しいクリニックとして完全に作り替えたのにも関わらず、以前の患者さんがいらしてくださることもあります。妻に「小さい頃を知っているよ」とお声がかかるのも有り難いことですね。


◆ どのような内容の検診を行っていらっしゃいますか。
 特定健診をはじめ、各種の健康診断を行っています。労働安全衛生法に基づく「雇入時の健診」や定期健診のほか、自費健診もお受けしています。眼科は色覚検査が中心です。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 江戸川病院と東京臨海病院にご紹介することがほとんどですが、疾患によっては都心の大学病院にお願いすることもあります。


◆ 経営理念をお教えください。
 経理に関しては妻に任せていますが、無駄のないようにと心がけています。しかし、職員を大切にするのが第一です。職員が楽しくやりがいを持って働ける環境であれば、それが患者さんにも伝わりますし、職員が患者さんを大事にしてくれるクリニックになると思っています。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 朝礼は毎日、行っていますし、職員向けの勉強会を不定期に開催しています。研究についてではなく、臨床に即した内容ですね。15分から30分ぐらいの時間で、医師会で聞いてきたことをはじめ、認知症の患者さんの扱いや地域で流行っている感染性の状況、薬の副作用についてなどを私が話しています。日常よく見る病気を分かりやすく説明したり、極稀にしか見ない病気の話もときにはします。認知症の患者さんの状況などを話し合う機会にもなっています。


病院風景07

◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 ホームページのほかは電柱広告を行っています。以前は近隣に10本ほど出稿していましたが、今は5本に減らしています。増患に効果があるのは地域の老人会で話をすることです。集まっている20人から30人の方々に健康づくりの話をするのですが、私自身が地域の皆さんとの触れ合いを楽しんでいます。患者さんも「糖尿病の患者が食べてはいけないものは何ですか」と質問をくださいます。外来では聞きにくいような現実的な質問が気軽にできる場になっているようです。


開業に向けてのアドバイス

病院風景08

 私どもは継承した土地で開業しましたので、立地に関しての選択肢はなかったのですが、やはりマーケティングは必須だと思います。そして、何よりも妻のサポートがないと、開業はできません。妻には感謝しています。また、クリニックは規模が小さいゆえに、スタッフがとても大事です。当院はスタッフ一人一人が創意工夫を凝らし、みんなで話し合いながら物事を決めています。当院スタッフの患者さんに対する心遣いなどは評判が良いと聞いています。

プライベートの過ごし方(開業後)

 お酒は飲まないし、ゴルフもしないんです。唯一の趣味と言えるものはジョギングでしょうか。近隣の開業医の先生にジャズ好きの方がいらっしゃるので、紹介された音楽を聴くのも楽しみの一つです。

タイムスケジュール

タイムスケジュール
こいわ内科眼科
  院長 佐野 裕之
  住所 〒133-0056
東京都江戸川区南小岩2-13-13
  医療設備 レントゲン、血糖値測定器、尿検査用測定器、移動式遠心方式臨床化学分析装置、心電図、無散瞳眼底カメラ、オートレフケラト/トノ/パキメータ、オートレンズメーター、電子カルテなど。
  スタッフ 8人(院長、非常勤医師1人、常勤看護師1人、非常勤眼科検査員1人、非常勤管理栄養士1人、非常勤事務3人)
  物件形態 戸建て
  延べ面積 250m²
  敷地面積 160m²
  開業資金 1億円
  在宅患者数の変遷 開業当初10人 → 3カ月後15人 → 6カ月後20人 → 現在35人
  URL http://www.koiwa-clinic.jp/

2017.04.01 掲載 (C)LinkStaff

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