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上六ツ川内科クリニック

三島 渉 院長

三島 渉 院長プロフィール

1972年に静岡市で生まれる。1997年に横浜市立大学を卒業後、横浜市立大学附属病院で呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科など、内科の各専門分野の研修を行う。1999年に三浦市立病院内科に勤務する。2001年に横浜市立大学大学院に入学し、細胞接着・運動の分子メカニズムに関する基礎研究を行い、学位取得。また、日本呼吸器学会、日本アレルギー学会の専門医を取得する。同大学院卒業後、横浜船員保険病院(現 横浜保土ケ谷中央病院)呼吸器科での勤務を経て、2007年に横浜市南区に上六ツ川内科クリニックを開業する。


日本呼吸器学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本禁煙学会専門医など。日本肺癌学会、日本呼吸器内視鏡学会、日本分子生物学会、日本細胞生物学会にも所属する。

 神奈川県横浜市南区六ツ川は南区の西側の地区で、保土ヶ谷区、戸塚区、港南区に接している。町の南北を横浜横須賀道路が、東西を平戸桜木道路が通っている。町内には神奈川県立こども医療センターなどの医療機関が集まっているほか、こども植物園もある。
 上六ツ川内科クリニックは横浜市南区六ツ川に2007年に開業したクリニックである。最寄り駅は京浜急行電鉄本線の弘明寺駅やJR横須賀線の東戸塚駅で、弘明寺駅からはバスで3分、東戸塚駅からはバスで11分の立地となっている。上六ツ川内科クリニックは呼吸器内科専門医である三島渉院長のほか非常勤医師9人を擁し、循環器内科、腎臓内科、消化器内科、膠原病リウマチ内科の専門医が在籍。生活習慣病、小児も含めて幅広く診療している。
 今月は上六ツ川内科クリニックの三島渉院長にお話を伺った。


開業に至るまで

病院風景02

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 私は口蓋裂で生まれたため、生後数カ月から何度も手術を受けてきました。幼稚園を卒園する頃まで手術と入退院を繰り返していたので、朧気ながら入院の記憶が残っているんです。両親は私を救ってくれた医療に対しての感謝の気持ちが強く、事あるごとに「あなたは病院で命を助けてもらったのだから、今度はあなたがほかの患者さんに恩返しをしなさい」と言っていました。感謝の気持ちがあるのは私も同様で、病院の先生方や看護師さんたちに優しくしてもらったので、自分がほかの患者さんたちを助ける医師という仕事をしていきたいと自然に考えるようになりました。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 中学から硬式テニスを始めて高校でも続けていたので、大学でも医学部のテニス部に入りました。ほぼ毎日、練習していましたし、テニス一色の生活でしたね。東医体や関東医科歯科リーグなどに出場していました。


◆ 大学時代はどんな趣味をお持ちでしたか。
 テニスのほかは車と旅行が好きだったので、長期の休みは車で遠くに出かけたり、仲の良い友人と旅行に行ったりしていました。その他の時間は、家庭教師や塾講師のアルバイトをしたり、標準的な医学生だったと思います(笑)。


◆ 専攻を呼吸器内科に決められたのはいつですか。
 研修医になってからです。ただ、内科医になりたいというのは大学時代に決めていました。私は手先の器用さに自信がなく、どちらかといえば勉強の方が得意だったので、手術をする外科系の診療科よりも内科に適性があると思ったんですね。内科を選択することに関しては迷いがなかったです。しかし、内科の中で何を専攻するかまでは決めていませんでした。母校の横浜市立大学で研修医になりましたが、横浜市立大学附属病院は今でこそ当たり前ですが、当時としてはまだ珍しいローテート方式の研修を行っていたんです。そこで、消化器内科、循環器内科、内分泌内科、呼吸器内科など自分が希望する各診療科を数か月ごとにローテートしました。ここで呼吸器内科を回ってみて、患者数に対して医師数が少ないことを知りました。内科医として働くからには貢献度の高い分野がいいと考え、呼吸器内科を選びました。


◆ 大学院に進まれ、研究に打ち込まれたのですね。
 研修を終えた後、呼吸器内科(旧第1内科)の医局に入局し、医局人事で三浦市立病院に勤務しました。ここに2年いたのですが、三浦市唯一の総合病院で一般内科医として赴任したこともあり、呼吸器内科に限らず内科各分野の症例経験を幅広く積みました。そういった臨床経験は、開業後にとても役立っています。三浦市立病院で内科医としてかなりの臨床経験を積むことができたので、大学に戻って医学研究をしてみたいという気持ちが芽生え、大学院に入学しました。大学院時代は患者さんをほとんど診ることなく、基礎研究に従事しました。最近、各種生物学的製剤など分子生物学の知見に基づく新薬が次々登場する時代になっており、大学院での研究生活がそれらの薬剤の作用機序を理解するのに大変役に立っています。大学院卒業までに日本呼吸器学会、日本アレルギー学会の専門医も取得しました。


病院風景03

◆ 大学院修了後は呼吸器内科医として勤務されたのですか。
 当時の横浜船員保険病院(現横浜保土ヶ谷中央病院)に呼吸器内科医として勤務し、呼吸器領域の患者さんを主に診ていました。かなり進行した状態の肺がんやCOPDの患者さんが開業医の先生から紹介されてくることも少なくなかったですし、誤嚥性肺炎の高齢の患者さんが退院してもすぐに再入院されたりするなどの経験が多く、総合病院ではなく開業医を受診した時点で何とかできないかなと考えるようになっていきました。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 勤務医の経験があってこその今ですから、貴重な体験でしたね。臨床経験の豊富なベテランの上司に指導していただく機会が多く、環境には大変恵まれました。上司からはそのときどきに丁寧なご指導をいただき、感謝しています。


開業の契機・理由

◆ 開業の動機をお聞かせください。
 結果的には卒後10年での開業となりましたが、特に10年でと考えていたわけではありません。呼吸器内科の勤務医としての経験から、開業医として何かできたらと思ったのがきっかけです。開業を漠然と考え始めてから半年後に開業しました。


◆ 開業地はどのように探されたのですか。
 不動産業者に知り合いがいましたので、物件の紹介を受けました。その業者さんは横浜の会社でしたので、横浜の案件を中心に紹介されたんです。紹介された中からこちらを選びました。


◆ 開業地の第一印象はいかがでしたか。
 大学に入学したとき、このあたりに住んでいたんです。ですから、土地勘がありましたし、ご縁も感じましたね。呼吸器疾患にかかりやすいのは高齢者ですが、南区は高齢者が多いので、呼吸器内科として開業するにはいい場所だなと思いました。弘明寺駅からはやや離れていますが、他の内科のクリニックは駅の周辺に固まっており、この近くには整形外科しかないのも良かったです。


◆ 開業にあたって、マーケティングはなさいましたか。
 診療圏調査を行いました。競合が少ないためか、良い結果を得ることができました。また、内覧会も開催しました。


◆ 開業までに、ご苦労された点はどんなことですか。
 勤務医と開業医では仕事が大きく異なります。経営や保険のことなどを全く知らなかったので、苦労しましたね。当初、開業を支援すると約束していた会社の経営状態が、実は非常に悪く倒産寸前だったことがあとから発覚して、開業資金の一部が無駄になりました。そのほかは内装でしょうか。この場所はもともとはお寿司屋さんだったんです。通常ならスケルトン状態での引き渡しなのでしょうが、お寿司屋さんの店舗のまま引き渡されたので、長いカウンターなどがあったんです(笑)。水回りやお手洗いの場所などを変更し、クリニック仕様にしていきました。ただ、いくつかの業者さんに見積もりを当たったので、改装費用は比較的リーズナブルに抑えることができました。


病院風景05

◆ 医師会には入りましたか。
 横浜市南区医師会に入りました。開業にあたっては最初から医師会に入ると決めていました。現在、医師会を通した委託業務として横浜市の公費予防接種や特定健診・がん検診などを行っています。数年前から南区医師会の常任理事を務めており、今年の4月からは横浜市医師会の学術団体である横浜内科学会の「呼吸器疾患の知識を増やす会」の代表世話人をしています。


◆ 開業当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 受付と看護師を含めてパート数名です。受付はすぐに決まりましたね。看護師の1人は妻なんです。看護師の確保のために、週に1、2日程度に勤務できる人を何人かお願いするという方法をとりました。最初は患者さんが少ないので、それでも大丈夫でしたよ。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 レントゲン、心電図、スパイロメーターを揃えました。開業当初は今のような来院数があるとは思っていなかったので、慎重でしたね。その後、来院患者数の増加に合わせて徐々に設備も増やしていき、現在のような体制になりました。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 22坪と狭いので、必要なものをどうレイアウトするかに悩みました。今は2診体制になっていますが、2診となると余裕がないですね。点滴の場所にも困っています。開業して2年後に2階のスペースを借りることができました。2階は53坪あります。ここはパソコン教室だったところなので、リニューアルはほとんど必要ありませんでした。2階はミーティングルームや事務スタッフの作業スペース、各種の教室として使っています。


クリニックについて

病院風景06

◆ 診療内容をお聞かせください。
 呼吸器内科の診療がメインのクリニックです。喘息・COPDに関しては、横浜市内のクリニックの中では有数の患者数となっています。呼吸器疾患以外では、生活習慣病の患者さんが多いので、管理栄養士による食事指導に力を入れているほか、2階で糖尿病教室を開催しています。糖尿病に関しては私自身も研修医時代に糖尿病内科でも研修し、インシュリンの管理なども学びましたので、抵抗はないですね。外来でインシュリン導入を行っています。
 呼吸器内科は私の専門分野ですから、検査機器は充実させています。最近多いのは、遷延性咳嗽、慢性咳嗽の患者さんで、近所のクリニックで咳止めや抗生剤を出されたけれども良くならないという方が遠くからもいらっしゃいます。私どもで検査を行い、診断、治療に繋げています。喘息の患者さんは子どもさんから高齢の方まで幅広いですね。
 リウマチや膠原病については、私の出身医局が呼吸器内科と並んで専門にしていましたので、そこで先輩だった医師が非常勤で診てくれています。
 小児科は喘息のお子さんを中心に診療しています。近所の小児科に通院していても、なかなか喘息の症状がコントロールしきれないお子さんの診療をお引き受けしています。横浜市内はもとより、神奈川県外から来院される方もときどきいらっしゃいますね。


◆ 在宅医療もなさっていますよね。
 もともと私どもにいらしていた患者さんがご高齢になり、坂道や階段を歩くことができなくなったということで、私どもの方から伺うようになったのがきっかけです。最近の在宅医療は24時間体制へのニーズが高いですが、私どもでは24時間体制ではないので、緊急の往診対応を希望される患者さんはお引き受けしていません。他の24時間対応可能な在宅医療専門施設をご紹介しています。


◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
 病気の治療と言えば、昔は「こうしなさい」、「この薬を飲みなさい」といった医師が患者さんに一方的に指示する「上から目線」の治療でした。しかし、そのような説明を行っていると、患者さんがいやいや通院することになり治療を継続していただくことができません。したがって、治療の必要性を患者さんご自身に納得していただくことが重要だと考えています。喘息やCOPDなどの慢性呼吸器疾患は、高血圧症など他の生活習慣病に比べると治療の継続率が低く、学会でも問題になっています。咳が治らない患者さんが来院され、喘息と診断し、咳が治まったとしても、そこから先の治療を継続していただくためには「こういう病気なので、こういう治療を続ける必要があります」と伝えて、その必要性について理解し納得していただかなくてはいけません。そのために、こちらから一方的に話すのではなく、「それなら治療を続けたい」と思っていただけるように丁寧にお話ししています。したがって、初診での説明に非常に時間をかけていますので、予約制にしています。


◆ 患者さんの層はいかがですか。
 7割が60歳以上の方で、男女比では女性の方が多いです。次は小学生以下の年齢層でしょうか。その間の層は少ないです。風邪などでしたら通りがかりの方もいらっしゃいますが、喘息や慢性咳嗽で来院されるのは、インターネットで情報収集された方や紹介の患者さんがほとんどです。


◆ どのような内容の健診を行っていらっしゃいますか。
 横浜市の公的な健診です。内容は肺がん、大腸がん、前立腺がんと特定健診ですね。企業の健診は受けていません。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 最も紹介が多いのが聖隷横浜病院で、CTやMRIといった画像検査をお願いしています。ネットを利用した予約システムで連携していますので、同一病院の外来と同じ感覚で予約することができ便利ですね。早期肺がんは神奈川県立がんセンターに主にご紹介します。進行がんは、病状に合わせて複数の施設の中から選択してご紹介しています。私どもでは、胸部CTを慢性咳嗽の患者さんに対しては原則として施行していますので、早期肺がんが年間数例見つかります。
 それ以外では例えば救急の患者さんは横浜市立みなと赤十字病院、間質性肺疾患は神奈川県立循環器呼吸器病センターなど各病院の特色に合わせて、適切な患者さんをご紹介しています。そのために、普段からできるだけ多くの病院の先生とコミュニケーションをとるように心がけています。


◆ 経営理念をお教えください。
 専門性の高い医療を地域密着で提供し、健康で豊かな地域社会づくりに貢献することです。今は外来でできる検査や治療が増えてきましたので、勤務医時代に病院で行っていたレベルの診療が開業医でも可能ですし、そういう診療をしたいですね。病院は病状が重くなってからの患者さんが多いですが、私どもでは軽症の段階でも専門的な診断や治療を提供していくことを心がけています。こういった方針に共感いただける医師に是非、おいでいただきたいです。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 医学的な内容のほか、患者さんとのコミュニケーションの取り方や情報発信についても指導しています。例えば、咳ひとつとっても、風邪に限らず様々な疾患の可能性がありますので、そこから早期発見や早期治療に繋がるように、医療者側から多くの情報を提供するための教育に力を入れているところです。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 初診の患者さんの来院のきっかけはホームページか紹介がほとんどですね。看板は近隣の道路に何カ所か出しています。以前は弘明寺駅にも看板を出していたのですが、契約更新を忘れてしまい、そのままになっています。看板はコストがかかりますので、もう少し余裕ができたら増やしていきたいですね。その他、紙面には記載できないいろいろな細かいポイントがありますが、当院に勤務して勉強したいという先生にはお伝えいたします(笑)。


開業に向けてのアドバイス

病院風景04

 開業医は経営者ですから、自分が何をしたいのか、どんな医療を患者さんに提供したいかをしっかりと考えることが一番大事です。したいことは何であってもいいのですが、一人一人がじっくりと考えて明確にしておくべきことですね。自分の周りを見ても、成功している先生は開業にあたって、自分がしたいことがはっきりしていて迷いがない人です。今は昔と違って、開業するだけで患者さんが自然にいらっしゃる時代ではありませんので、勤務医が嫌だからとか開業医のほうが楽そうだから開業したいといったネガティブな動機ではいけません。こういう医療を提供したいということを明確にすることで、そこに惹かれた患者さんとスタッフが集まってくるはずです。

プライベートの過ごし方(開業後)

 今もテニスが趣味で週2、3回はしています。スクールに行く日もあれば、スクールで知り合った方々と一緒に練習することもありますね。また、最近はワインも楽しんでいます。月に1、2回程度、日曜日にワイン好きの人たちと集まっています。それ以外では、半分仕事ですが、経営者向けの勉強会で知り合った他の医療機関の経営者の先生や医療系以外の他業種の経営者の方たちとも積極的に交流して、幅広く情報を収集するように心がけています。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図
上六ツ川内科クリニック
  院長 三島 渉
  住所 〒232-0066
神奈川県横浜市南区六ツ川1-873-3
  医療設備 モストグラフ、呼気一酸化窒素ガス分析、スパイロメーター、血液ガス検査、レントゲン、心電図、超音波、電子カルテなど。
  スタッフ 35人(院長、非常勤医師9人、常勤看護師2人、非常勤看護師3人、常勤臨床検査技師4人、非常勤臨床検査技師3人、非常勤放射線技師1人、非常勤管理栄養士4人、非常勤事務8人)
  物件形態 ビル診
  延べ面積 75坪
  敷地面積 1階22坪、2階53坪
  開業資金 約3,000万円
  外来患者/日の変遷 開業当初30人→3カ月後50人→6カ月後60人→現在80人(2診の日は130人)
  URL http://www.kamimutsukawa.com/

2016.08.01 掲載 (C)LinkStaff

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