あの人に聴く
シリーズ「あの人に聴く」―40回―
 「広く」診る全人的美容医療

 乃木田 俊辰先生


 
「美容といっても広い皮膚科診療の中の一つです。美容皮膚科しかできないような皮膚科医では困ります」
そう語るのは、美容皮膚科の第一人者として知られる乃木田俊辰先生(新宿南口皮膚科)です。日本皮膚科学会で本邦初のレーザー脱毛に関する報告を行い、日本での美容皮膚医療を牽引してきた医師の一人です。
美容と医療の関わりは、当初美容外科・形成外科領域が中心でした。その後医療技術の進歩により、皮膚科領域が注目されるようになり、近年はケミカルピーリング、医療レーザー脱毛、ヒアルロン酸注入、などに人気が集まっています。
社会全体で美容と健康に対する関心が高まる中、美容医療に対するニーズは益々高まっています。また、「サービス業としての医療」といった側面に着眼すると、美容医療は自由診療の先駆けとしての性質を備えてもいます。
新宿南口皮膚科にて、美容皮膚科との関わり、そしてこれからの医療について伺いました。




乃木田俊辰先生プロフィール

1952年東京生まれ。熊本大学医学部卒業後、東京大学医学部にて医学博士号取得され、1990年より東京女子医科大学で皮膚科診療に従事、1993年に同大学助教授となり、米国ハーバード大学に留学されました。 一般皮膚科の診療にとどまらず、美容分野の皮膚科診療についても豊富な臨床経験を持ち、特にレーザー脱毛については日本におけるパイオニアでもあります。

所属学会:日本皮膚科学会、日本臨床皮膚科学会、日本美容皮膚科学会、日本香粧品科学会、日本レーザー医学学会

主な著書:『皮膚科医が語る最新レーザー脱毛』(新日本教育図書)
 
 ●「広く」診る皮膚科、そして美容皮膚へ

―医師を志したきっかけについて伺えますか。

 医師の家系ではなく、子供の頃は「お医者さんは雲の上の人」と思っていました。高校生くらいの時に、社会に貢献できる職業として、医師を志すようになりました。

―他に興味のあった職業は。

英語が好きでしたので、英語の先生になろうと思ったこともあります。文系タイプで、数学は苦手でした。


―ドクターには珍しいですね。

 お陰で二年間浪人をしてしまいましたが、その後英語はとても役に立ちました。文献を読んだり、英語で論文を書くのにも抵抗がありません。世界水準の先端医療についていこうとしたら、語学はとても大切です。

―なぜ皮膚科を選ばれたのですか。

 皮膚は頭皮から足の先まで、全身にあります。皮膚科は全身を診られるのです。しかも検査機器を使わないで診察ができます。身体上の範囲でも、対象の年齢という意味でも、非常に「広く」診るのが皮膚科なのです。学生の頃から関心をもって、勉強会等に出席していました。




―その中で、特に美容皮膚に関わるようになったのは、きっかけがあったのでしょうか。

 東京女子医大にいた頃、ムダ毛の自己処理によるトラブルなどで受診される患者さんを診る機会が少なからずありました。かぶれたり、抜いたところが毛嚢炎を起こして色素沈着になってしまった方々です。また、エステ等の施術トラブルでお越しになる方もいました。「たかがムダ毛」と思うかもしれませんが、男にはわからない深刻な問題があるのだな、と痛感したのです。
95年から96年、ハーバード大学で医療レーザー脱毛の技術が確立されました。ちょうど大学を辞めた時期と重なり、これが最初のきっかけでした。

―当時最先端の技術を日本に紹介することになったのですね。

 その後患者さんのニーズに応える形で、ニキビ治療やケミカルピーリングなども研究していきました。
大学病院では、どうしても色々な制約があり、美容皮膚科にそれほど力を入れるわけにもいきません。当時は美容というと美容外科・形成外科が中心だったのですが、自分のできる範囲から美容皮膚科の分野を始めていこうと思いました。

 ● 全人的な美容医療
―大学で助教授までされた先生が美容皮膚科の分野に行くということには、色々な意見があったでしょうね。

 異端児扱いされることもありました。また「医者の仕事は病気を治すことであり、美容のお手伝いではない」と言われる人もいました。
しかし皮膚について一番学んできているのは皮膚科医なのです。病気を治すことはもちろん大切ですが、こういう方向に向かう人もいて良いはずです。徹底して基礎から学んできた医師が手がけるからこそ、患者さんにとっても大きな意義があると思います。

―医療そのものの使命も、単に「病気を治す」ことから「健康の増進」へと向かっているように思えます。

 例えば脱毛は、病気の治療ではないから保険は使えません。「多毛症」などという診断名を勝手につけるわけにはいきませんから。しかし患者さんの全人的な健康とQOLを考えるなら、狭い意味での「治療」に劣らない意義があるのです。

―実際、女性にとって美容は大切な問題です。色々な患者さんが受診されるでしょう。

 ムダ毛は深刻な悩みです。脇などは一般的ですが、顔の毛が濃くて悩んでいる方もいらっしゃいます。
一度六十代の女性が「膝下の脱毛をしたい」とお見えになりました。お孫さんに指摘されて来院されたとのことです。年配の方はムダ毛のことなど考えないと思うかもしれませんが、看護師さんの目を気にしている方もおられます。
男性は「たかがムダ毛」と考えがちですが、女性患者さんの悩みは深く広いのです。
―患者さんの意識も「病気になってから医療を受ける」より「病気にならないよう健康を管理する」「より良く生きる」へと焦点が移りつつあります。

 有名なWHOの健康定義でも、健康は「単に疾病または病弱の存在しないことではない」とされています。美容医療には「健康の増進」という一面があると言えるかもしれませんね。「広く」診るという皮膚科医療の特色が生かされる分野だと思います。

―メンタルな部分まで診ることになりますね。

 それは美容皮膚科に限らず、医療従事者全体が考えなければならないことです。ただ、とりわけ患者さんの立場になってあげることが必要な分野ではあります。
ニキビになって普通の皮膚科を訪れても、「放っておけば治る」というような先生もいるかもしれません。ですが、二十代の大人のニキビというのはデリケートなもので、本人にとっては重大事です。
また「三食きちんと食べて、十分に睡眠をとり、化粧をしないように」というアドバイスも聞かれます。医学的には間違っていませんが、普通に働いている女性に「化粧をするな」と言うのは、大変酷な話です。
治療も相手の立場で現実的に進めなければなりません。
―大学病院ではとてもそこまで気を配れないでしょう。

 大学では湿疹、アトピー性皮膚炎、膠原病、あざ、皮膚腫瘍、皮膚癌、脱毛症など、様々な疾患を治療しなければなりません。ニキビの悩みまでしっかり対応できないのは仕方ない面もあります。
病院にはそれぞれの使命というのがあり、大学病院と開業医ではなすべきことが異なります。大学でできなかったことをやっていきたいです。


―開業してからの苦労をお聞かせ頂けますか。

 大病院のように特別な医療機器を置いているわけではありませんから、特殊な診療ができるわけではありません。一回一回が勝負です。不満があれば、別の医院に行けばいいことですからね。大病院のような「待ち」の姿勢では勤まりませんし、一回不満を与えてしまったらそれでおしまいです。
患者さんというのは、不満があってもそうそう教えてくれません。診察室に入って来られた瞬間に、どんなバックグラウンドを持っておられるのか感じ取らないといけません。何を求めているのかを察して、きちんと治せなければ、信用を失ってしまいます。
わたしも開業医としてはまだまだひよっこですから、心してかからなければなりません。


―美容と言うと、一般の方はエステを想起することも多いと思います。

 わたしはエステを否定しようとは思いません。リラクゼーションやストレス解消など、意義は大きいと思います。ですが、エステは健康な人が利用するところであって、皮膚のトラブルを治す目的で利用するのはどうかと思います。

 ●メッセージとプライベート
―過剰広告とも言えそうなものや、明らかに間違った情報がネットで発信されていることもあります。

 残念なことです。そのようなやり方では、美容皮膚科全体が信用を失ってしまいます。美容皮膚科であろうが何だろうが、最後は人であって、どんな医師が診察しているか、です。
やはりコツコツと真面目な治療をすることで信頼を築き、口コミで患者さんに来てもらうのが自然でしょう。当院では、娘のニキビがきれいに治ったのを見てお母さんが受診されたこともあります。


―「広義のサービス業としての医療」ということで、自由診療の先駆けという面から美容皮膚科に注目される方もいます。

 これは非常にデリケートな問題です。過日の皮膚科の総会でも、例えば褥瘡の治療についての発表に対し「保険適応にならないのではないか」といった質問が飛ぶこともありました。もちろん、真剣に病気を治そうという真面目な発表ですし、質問者の方も治したい一心の治療が保険適用にならなかった経験から質問しているのです。
「自費でも良いから治したい」という患者さんは沢山おられます。三十万かけてもPETを受けて、癌の早期発見のため徹底的に調べて欲しい人もいます。ただ、医療に貧富の差が出てしまうのも問題ですから、うまくコンセンサスを作っていく必要があるでしょう。


―厚労省・医師会に対して一言頂けますか。

 介護保険制度・医療制度については、議論をつくしてしっかりやってもらいたいです。

それから、現在の医療活動は広告が厳しく制限されたり、法的に大きな制約を受けています。理念・倫理は大切ですが、患者さんのために尽くして正当な報酬を得ること自体が悪なわけではありません。現状に合っていない部分についてはよく議論し、見直していくことも必要だと思います。。

―美容皮膚科医を志す若い先生に、メッセージを頂戴できますか。

 最近の若い人の中には、最初から美容皮膚科ばかり意識している人がいます。ですが、シミ、シワ、ニキビしか診られない皮膚科医では困ります。総合的な知識と技術があり、病気がわかる皮膚科医が診るからこそ、美容分野でも患者さんの信頼を得られるのです。少なくとも皮膚科専門医の資格をとってから美容皮膚科に進んでもらいたいです。
医師というのは社会的に重い立場にあります。人の生命や人生に深く関わる仕事です。自分を磨いていかなければ通用しないだけでなく、他人に迷惑までかけることになります。
それから技術に加えて人格も磨いていって欲しいです。これは医学部だけでは学べないことで、人間性を深める思想や哲学などとも積極的に接していって欲しいです。

先生の医療に向かうポリシーをお聞かせ頂けますか。

一つは、皮膚科医としての二十五年の知識と経験を美容皮膚科に生かしていく、ということです。
もう一つは、先端医療を取り入れつつ根拠のある正しい医療技術を提供し、患者さんに満足して頂くことです。

最後に、ご家族とご趣味についてお聞かせ下さい。

妻と中三の息子と高三の娘、それからラブラドール犬(チョコレート色)を一匹飼っています。趣味は映画・音楽鑑賞です。 『デイ・アフター・トゥモロー』を息子と見に行きました。
実は感動屋なのです。『ダイバー』という映画をビデオで見たときは、涙が止まりませんでした。映画を見ては泣いているので、子供たちが「お父さんきっと泣くよ」と賭けをしているくらいです。
でも感動するということは、脳が賦活されて健康に良いのですよ。『冬のソナタ』にもはまっています(笑)。


 助教授まで勤めながら美容皮膚科の道を選び、真剣に皮膚科医療の未来を見詰めたかと思うと『冬のソナタ』の話題へ。乃木田先生は、非常に人間味あふれる医師でした。一般の医療にもまして患者さんの心に敏感でなければならない美容医療の世界では、そんな柔軟な姿勢こそが大切なのでしょう。

2004.8.1掲載 (C)LinkStaff

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