あの人に聴く
シリーズ「あの人に聴く」―30回―

国境なき医師団

日本理事および派遣医師  山本敏晴 先生

<前編>「<偽善>ではない国際協力とはどういうことなのか?」


 
『シエラレオネ―5歳まで生きられない子どもたち』(アートン社、2003年) が、メデイアで話題になっている。著者は山本敏晴氏。世界中で活躍する国境なき医師団(以下、MSF)の医師であり、写真家としても活躍している。本書は、氏が自ら撮影した写真と平易な文章を通して、氏が考えている「国際協力」の方法と実際の活動が紹介されている。  

山本敏晴:1965年生まれ。幼少の頃父と一緒に南アフリカ共和国を訪れ、そこでアパルトヘイトを目の当たりにする。その後、アジア・アフリカを中心に40ヶ国以上を旅し、7カ国もの言語をマスターした。医師免許取得、2001年にMSFからシエラレオネに派遣される。03年にはMSF日本の理事に就任し、現在も活躍している。その他の著書としては、『世界で一番いのちの短い国−シエラレオネの国境なき医師団』(白水社、2002年)がある。

<前編>

「国際協力」とは「偽善」なのか?「国際協力」は「善いこと」であることは思うのだが、いろいろと考えていくと「無意味なのではないか?」「自己満足に過ぎないのではないか?」という疑問は、どうしてもつきまとってくる。
逆に、「本当に意味のある国際協力」を語ることは非常に難しい。そのような中で、山本敏晴先生は、「本当に意味のある国際協力」のあり方を語れる数少ない人ではないだろうか。

今回は、山本敏晴先生に「<偽善>ではない国際協力とはどういうことなのか?」ということを中心にお伺いしました。
 
 
●国際協力は、「偽善」か?
 
Q 先生御自身が医者を志し、国際協力に投じたきっかけはなんだったのですか?

A 実家が開業医でしたから、当然、後継ぎとして期待されていました。高校時代には、具体的にやりたいものもなかったので、とりあえずその期待に添って医学部に入ったという感じです。
しかし、小学6年の時に、父につれられて、まだ人種差別政策をしていたころの南アフリカへ行きまして。やはり、衝撃を受けました。
それ以来、国際協力には関心がありましたが、偽善ではないかという気持ちが、ずっとありました。


Q 「偽善」というと?

A アフリカでは、年間300万人が飢えて死んでいる。私がそこへ行って、300人を助けたとしても、自己満足に過ぎないんじゃないかと思ったんです。しかも、私が帰った後、もとの医療状態に戻ってしまうのでは意味がない。
また、現在世界では人口爆発が大きな問題となっており、あと50年で人類は100億を越えるといわれています。このような状況で、かわいそうだからといって、なんでもかんでも死に逝く命を助ける、ということが本当に正しいことなのか?と思っていました。
さらに、それぞれの地域には独自の文化がある。医療にしても、神主さんなどが四千年に渡って、薬草や祈祷を用いた伝統医療をやっている。確かに、あまり効き目がないのだけれど、彼ら自身の文化として培ってきたものを、やめろなどと無理強いして良いものかどうか。

そう考えると、国際協力ってムダじゃないかと思いもしました。それでもなぜか、ずっと気になって、世界中を旅行しながら考えました。欧米の先進国ではなく、アフガニスタン、イラン、カンボジアなど多くのいわゆる発展途上国といわれるところに旅行し、MSFも含めて国際協力に携わっている団体の見学もしました。
ようやくムダにならない国際協力のやりかたを思いつき、それを実践してみようと考えたのです。

 
 
●「ムダ」と「偽善」に終わらせないために

Q それでは、「ムダにならない国際協力のやりかた」とは具体的にどのようなことなのですか?

A 私としては3つのことが大切なのではないかと考えます。
一つは、私が帰った後も、私がいた時と同じレベルの医療が維持できるように、徹底的に現地の医療スタッフの教育をすることです。これにより未来に残るシステムを作ることが可能となります。
第二に、医療で人の命を助けるのと同時に、必ず徹底的な「家族計画=ファミリープランニング」を行うのです。すなわち、避妊の必要性を患者さんだけではなく一般の村人たちにも説明し、またその方法を説明するのです。
第三は、あくまで彼らの文化を尊重することです。

Q 具体的にはどのようなところからはじめるのですか?

A まず、私は現地語を覚えるところからはじめます。患者さんの診察を現地語でできるようになると、単に診察だけで終わるのではなく、ある程度深いコミュニケーションが可能となります。
そして、半年間医者として死にもの狂いで働きます。現地の人から信用を得るために、医師として猛烈に働くのです。





 
Q その信用が「公衆衛生教育」の成果につながっていくのですね。

村長さんや宗教的に偉い人に信用されるようになると、一般の人々に公衆衛生教育をするための場所を借りることができるようになります。
公衆衛生教育で教えていることは、第一に、「トイレに行った後は手を洗うこと」というような衛生面に関すること、第二に、「マラリアにならないようにするには、どのようなことに注意すべきか」というような予防医学的なこと、第三には、「家族計画=ファミリープランニング」に関することですね。


Q 「家族計画」を実践してもらうことは、非常に難しいのではないでしょうか?

A そうです。初めから「家族計画」を教えようとしてもうまくいくとは、私は考えておりません。だから、「医師」として「人」として現地の人々から信用されるということが非常に重要になってくるのです。

Q 具体的には、どのように「家族計画」を教えるのですか?

A まずは、家庭の収入と出費についての教育をいたします。具体的には、一年間の収入を計算し、その中で、「現状の収入では子どもは5人くらいしか養えない」といったことを明確に示すのです。具体的には、現地の人々の生活にのっとって「避妊」の必要性を伝えるわけです。避妊の方法もコンドーム、ピルなど7種類用意します。そこから選んでもらうわけです。
Q そして、「現地の文化を尊重すること」ですね。

A 必ず現地の言葉を覚え、文化を理解し、尊重できるようになってから、「公衆衛生教育」や「家族計画」を行わないといけない。現地文化において、神主さんや祈祷師さんのような人は、非常に高い地位にあります。そのような状況で、ある日突然来た外人が、自分のやり方を押し付けるということは、とんでもないことなんですね。
 
 
●「未来へと続くシステム」

Q 「未来へと続くシステム」を実現するためには具体的にどのようなことをしていかなければいけないのでしょうか?

A 病院を建てても、永続的に現地の人々で運営していくためには、医療の充実のみではいけない。
まずは政治の安定が必要です。もし戦争になってしまい、病院や学校が壊されてスタッフが殺されてしまえばしょうがないんですね。そこで、国連を通じて、その地域の政治的な安定を確立することがまず必要になります。 その一方で、経済援助が必要です。そして、最終的には、地域の人々が経済的に自立することが必要になる。例えば、医療でも薬を買って運ぶための予算や職員の給料代がどうしても必要になるんですね。これを地域の人たち自身で費用を負担する必要がある。学校でも病院でも運営していくための資金を、住民たちが自らつくっていかないといけないわけです。そのためには、現地の人々の手によって、農業等で米の収穫量をあげるなりして、利益を出していかなければならない。その体制ができるようになるための支援が必要なのです。
その次に教育ですね。例えばシエラレオネでは、約7割の人が義務教育を受けていない。そうすると医師や看護師を育てていくことができないわけです。そのためには、教育のシステムをつくっていかなければならない。

 

Q 総合的に援助して、自立を促すことが重要なんですね。

A そうです。そのためには、医療だけでなく、経済援助・学校教育などを専門とする様々な団体との協調関係を築いていくことが重要になってくるわけです。

Q 日本の「国際協力」というと、モノやカネを与えるイメージが強いのですが、先生の方は、ご自身の知恵や力を貸すという感じがしますね。

A モノやお金を与えるのは、最終的なところで意味がありません。後に残らないのです。現地の文化にあった形で援助を行い、あくまで彼ら自身の手によって未来を作って頂く。私たちにできるのは、それに少しだけ手を貸すことぐらいなのです。

 
(終わり)
山本敏晴先生は、宇宙船地球号を設立後、プロとして国際協力を行いたい人のためのガイドブックを多数出版されました。
「国際協力師になるために」(白水社)と「世界と恋するおしごと」(小学館)がお勧め。
詳細は、こちらへ。http://www.ets-org.jp/pub.html

また、国際協力を将来行い人の悩みを相談するため、ウェブ上での対談も掲載されています。
「未来の国際協力師たちへ」は、こちらへ。http://www.ets-org.jp/mirai/
 
山本先生は2005年3月に、国境なき医師団の理事を退任されました。
 
2003.11.1掲載 (C)LinkStaff

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