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医療の可能性を追求し、病気を未然に防ぐ

原野 悟 院長

原野 悟 院長プロフィール

 1959年に京都府に生まれる。1983年に日本大学医学部医学科を卒業し、1987年日本大学大学院医学研究科で博士号を取得する。その後、日本大学医学部脳神経外科助手、中駿赤十字病院脳神経外科部長などを歴任する。2001年に米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院で修士号を取得し、日本大学医学部公衆衛生学講師の後、2008年に労働衛生コンサルタント事務所、エム・ディ・コンサルタントとクリニックカミオギを開業する。2010年4月に診療所を神谷町に移転、かみや町駅前クリニックと改称し、現在に至る。日本大学医学部兼任講師。日本脳神経外科学会認定専門医、日本抗加齢医学会認定専門医、日本旅行医学会認定医、日本東洋医学会認定専門医、日本産業衛生学会指導医、厚労省労働衛生コンサルタント。

 かみや町駅前クリニックの原野悟院長は日本大学大学院を修了後、脳神経外科の臨床の現場に携わってきた。そこで出会ったのは、機能障害や後遺症で以前の生活に戻れずに悩む多くの患者さんだった。脳卒中などの病気は脳の組織が破壊されてしまうために、機能が元の通りに戻ることは難しい。そうした現実に直面し、唯一の解決策である「病気を予防する」という公衆衛生学(予防医学)に方向を転換する。そこで、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学でこの分野の修士号を取得し、自分の理想を実現するために開業という道を選んだ。そこで脳神経外科、心療内科などに加え、キレーションやアンチエイジング点滴療法、動脈硬化ドック、旅行医学など幅広い分野で診療を行う院長に、取り入れている新しい治療法や日米の医療の違いなどについて、お話を伺った。


開業に至るまで

病院風景

 原野院長が医学の道を志したのは、小学2年生のときに社会科の授業で「人の役に立つ職業」として、医師の仕事について知ったのがきっかけだった。それからは目指す方向はぶれることなく、高校受験でも医学部のある大学の付属校を選択し、日本大学医学部に進学した。そして、大学から大学院に進み、医学博士号を取得する。
 学生時代、定位脳手術に関するドキュメンタリー番組を見て感動したことから、大学院修了後は脳神経外科の臨床の場で経験を積んだ。その中で多く目にしたのは、機能障害や後遺症で元の生活に戻れずに苦しんでいる患者さんだった。

 「脳卒中などの病気になると、脳の組織が破壊されてしまうので、リハビリなどをしてもなかなか元通りの機能が戻ることはありません。そうした事態を避けるためには『病気を予防する』ことが何より大切だと考え、公衆衛生学へ方向を転換しました。」

 そして、日本大学医学部公衆衛生学助手から講師を経て、米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院に留学する。ノーベル賞の受賞者を数多く輩出し、医学の分野では世界最高峰といわれる大学で、健康コミュニケーションや健康サービス研究などを専攻し、2001年に修士号を取得する。帰国後は再び日本大学に戻ったが、公衆衛生を現場で実践するため、開業を考えるようになった。

 また、予防医学を突き詰めていくと、加齢によりもたらされる疾患をいかに防ぐかという問題にも関わるようになってくる。そこで、アンチエイジングの分野でも専門医の資格を取った。

 「アンチエイジングというと普通、美容外科の分野と思われがちですが、私が加盟していた日本抗加齢医学会が提唱しているのは臓器からのアンチエイジングです。動脈硬化などを防ぎ、老化をしないということは究極の予防医学だという考えに賛同しました。」

 2008年10月、そうした院長の理想を実践する場として、友人が物件を持っていた杉並区荻窪で、クリニックカミオギをオープンする。その後、2010年4月に神谷町に移転し、かみや町駅前クリニックと改称した。


クリニックの内容と特徴

病院風景 かみや町駅前クリニックでは、「医療の可能性を追求する」というテーマを掲げ、診療を行っている。脳神経外科、心療内科、漢方内科、内科、外科に加え、キレーションや高濃度ビタミンC療法、アンチエイジング検査・点滴療法、動脈硬化ドックや旅行医学など、幅広い分野に対応している。

 「私が学生時代に漢方や中国医学を勉強していたとき、『そんなものは非科学的だ』という先生もいました。ところが、今では漢方は科学的に有効性が証明されたり、そこから成分を抽出して薬が作られるなど、多くの医療機関で取り入れられています。そのように、これまであまり注目されてこなかったものでも、本当に有効なものがあれば、どんどん治療に取り入れて、活用していきたいと考えています。」

 また、新しいものを取り入れるには、患者さんにきちんと納得してもらうことが大切になる。原野院長はアメリカで「健康コミュニケーション」という分野を勉強しており、患者さんへの情報伝達という点にも心を配るようにしている。

 一般診療の中で特に力を入れているのは認知症だが、かみや町駅前クリニックでは、「コウノ・メソッド」という治療法を導入し、周辺症状を陽性症状と陰性症状に分け、これらと中核症状のバランスから薬の種類と量を決めている。また、フェルラ酸とガーデンアンゼリカを配合したフェルガードを積極的に使用し、個人の状態に合わせた漢方的治療を行う。

 原野院長はアメリカで行動科学や社会心理学を学び、厚労省の休養指針策定や「健康日本21」の「休養・こころの健康づくり分科会」の委員として、メンタルヘルス政策にも関わってきた。また、多くの企業でメンタルヘルス対策を実践してきた経験から、心療内科の分野にも力を注いでいる。薬物療法では通常の薬だけでなく、患者さんの希望によって漢方薬や、補完療法として点滴診療も用いる。また、各種心理テストの結果をもとに、認知行動療法や自律訓練法、暗示療法、合理的情動療法などの心理療法も行っている。

 さらに五十肩、打撲、関節炎などの新しい治療法として、低出力レーザー治療を実施している。これは、極めて弱いレーザー光を皮膚の表面から照射して、急性、慢性の疼痛や炎症を和らげ、同時に自己治癒力を高めて病気自体も治していく療法だ。

 自費診療で行っているものとしては、合成アミノ酸のEDTAを点滴静注するキレーション療法を導入している。

 「これはキレート剤という金属を体外に出す薬を使い、狭心症や心筋梗塞、糖尿病性血管障害などを治療します。この方法は活性酸素を取り除き、動脈硬化を予防する効果があるということも最近、分かってきました。」

 また、ガンの治療法として注目されている高濃度ビタミンC抗ガン療法も実施している。ビタミンCを高濃度で点滴投与し、過酸化水素が生成されることで、正常細胞に影響を与えずにガン細胞の細胞死を誘導する。

 そのほか、ナルトレキソン、マイヤーズカクテル、プラセンタといった様々な疾患に有効とされる治療法も導入している。

 アンチエイジングの分野では、血管年齢や脳年齢、酸化ストレス度、肥満ホルモンの検査を実施している。脳動脈硬化予防点滴やグルタチオン療法、スタミナ注射、アフタードリンキング点滴などを行う。

 予防医学に関しては、インフルエンザ対策など一般的なものに加え、ごく初期のガンの兆候を発見することのできる「ガン免疫ドック」(イムノドック)や動脈硬化の進行程度をあらゆる検査から評価する「動脈硬化ドック」なども受け付けている。

 原野院長は日本旅行医学会の認定医の資格も持っており、旅行に関する検査や健康相談も行っている。

 「旅行医学を扱っている医院では、予防接種だけをしているところが多いのですが、当院ではダイビングの健康相談や、高地に行く人に高山病の薬を処方したり、海外に長期滞在する人のために英文診断書を作成するなど、旅行全般に関わる問題に対応しています。」

 現在、来院している人の大半はホームページを見て来た人だ。そのため、今あるサイトをより見やすくリニューアルし、ネットからも予約ができるように、準備を進めている。


日本とアメリカの医療の違い

病院風景

 予防医学への取り組みに関しては、アメリカでも予防医学だけをやっている医師は一般的ではありませんが、それでも専門家がきちんと存在します。私が卒業したような公衆衛生を学べる大学院も数多くありますが、日本には少ないですね。日本では公衆衛生のベースを持っている人がほとんどいないため、ワクチンの投与や人間ドッグなどだけで終わってしまい、予防医学が浸透していかないというのが現実です。
 アメリカでは日本よりも医療費が高いので、病気になると破産する人も出てしまいます。そのため、病気にならないように予防しようという意識も高くなります。統合医療も日本で浸透しないのは、「保険が利かない治療は認められていない医療」という誤解があるためです。しかし、アメリカでは日本のような保険制度がないので、保険が利く、利かないは関係ないんですね。そういった環境の違いがあると思います。日本では今、医療崩壊が社会問題ですから、制度を見直すいい機会です。これを機に、新たな仕組みを作っていくべきなのではないでしょうか。


院長のプライベート

病院風景 勤務医をしていたときに、ダイビングのインストラクターの免許を取って、伊豆やグアム、タヒチ、グレートバリアリーフなど様々なところに潜りに行きました。また、昔ボーイスカウトに入っており自分の子供も加盟した関係でそのリーダーをしたり、最近では合気道で黒帯を取ったりもしましたが、今は忙しくて、なかなか趣味のために使える時間がないですね。


開業に向けてのアドバイス

 開業のいい面だけを見ている先生がいますが、勤務医の方が意外に時間的拘束は少ない場合もあるし、収入面でも安定しています。そのようにいい面、悪い面をきちんと視野に入れて、自分の理想を実現するための開業を検討してほしいですね。


タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

かみや町駅前クリニック

  院長 原野 悟
  住所 〒105-0001
東京都港区虎ノ門4-2-4 ヨシノビル5階
  医療設備 低出力レーザー、血圧脈波検査装置、減菌装置、誘発電位筋電図検査装置
  物件形態 ビルテナント
  延べ床面積 21坪
  開業資金 4,000万円
  URL http://kamiyacho.org/

2010.12.01.掲載 (C)LinkStaff

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